記述の「具体例そのまま」は卒業!
偏差値の壁を破る「抽象化スキル」の育て方
~筆者の“思い”を言語化する一生モノの読解力を~
中学受験の国語講師として多くの答案を添削していると、ある共通の「もったいない答案」に遭遇します。それは、本文の内容を完璧に読み取れているはずなのに、「具体例をそのまま解答欄に書き写してバツ(または大幅減点)になる」というケースです。
「だって本文にそう書いてあるもん!」というお子さんの言い分もわかります。しかし、記述問題において筆者の主張を問われた際、具体例をそのまま書くことは、実は「問いに答えていない」ことと同じなのです。
なぜ子どもは「具体例」を書きたがるのか?
理由はシンプルです。具体例は「目に見える」からです。
- ✅ 「犬が吠えている」→ 情景が浮かぶ(書きやすい)
- ❌ 「恐怖心が防衛本能として顕在化している」→ 情景が浮かばない(書きにくい)
子どもにとって「抽象的な表現」は、つかみどころのない雲を掴むような作業です。そのため、安心できる「目に見える具体例」を解答欄に放り込んでしまうのです。この壁を超えるには、思考のトレーニングが必要です。
1. 「具体例」は、主張を輝かせるための「照明」にすぎない
想像してみてください。舞台の上に、一人の俳優(筆者の主張)が立っています。その俳優を照らすスポットライトや背景のセットが「具体例」です。
観客(採点官)が見たいのは、スポットライトそのものではなく、照らし出された俳優の演技(主張)です。
「例えば、リンゴを落とすと地面に落ちる。水は高いところから低いところへ流れる……」
ここで答えるべきはリンゴや水の話ではありません。それらを通じて証明されている「万有引力の法則」を書くべきなのです。記述問題で「具体例」を見つけたら、まずは心の中でこう唱えてください。
「これは何の説明のための道具なんだ?」
2. 「具体から抽象へ」変換のステップアップ
抽象化とは、「一言でまとめるとどういうことか?」を考える作業です。以下の3つのレベルで練習してみましょう。
Level 1:名詞の抽象化
「鉛筆、消しゴム、定規」
→「文房具」
Level 2:動作の抽象化
「時計を何度も見て、貧乏ゆすりをする」
→「焦りを感じている」
Level 3:主張の抽象化
「コンビニの弁当はプラスチックゴミが多い」
→「環境負荷への懸念」
3. 「大人との対話」が思考の回路を作る
ここが最も重要なポイントです。抽象化スキルは、自分よりも抽象度の高い言葉を使える人間とのやり取りの中で磨かれます。
国語の勉強中だけでなく、日常の何気ない会話を「抽象化トレーニング」に変えてみませんか?
親子でできる「つまり何?ワーク」
お子さんが学校の出来事を話してくれたら、こう切り出します。
親:「へえ、それは大変だったね。今の話を一言で表すと、『予期せぬトラブルが起きた』って感じかな? それとも『努力が報われないもどかしさ』って感じかな?」
あえて難しい言葉(心情語や抽象語)を混ぜて「選択肢」を出してあげてください。子どもは「そう、それ!」と反応することで、その言葉のニュアンスを体感として覚えていきます。
4. 記述の極意:筆者の“思い”にリーチする
合格する記述答案を作るためには、本文にある具体例を「踏み台」にして、その上にある「筆者の哲学」を掴み取りにいく必要があります。
「具体例=事実(データ)」であり、「主張=意味(価値観)」です。中学受験の国語が求めているのは、事実の羅列ではなく、その事実から何を読み取ったかという思考のプロセスなのです。
まとめ:一歩上の視座を持つ
具体例に頼らず、その裏にある本質を自分の言葉にする。この作業は確かに苦しいものです。
しかし、この「抽象化」の視点を持てるようになると、国語の偏差値は間違いなく一段階アップします。
それは単にテストの点数を取るためだけではありません。将来、複雑な社会に出たときに、物事の核心をパッと見抜く「本当の知性」へとつながっているのです。
さあ、今日からお子さんと「つまり?」を合言葉に、対話を楽しんでください!